「母の愛」と「罪の赦し」と「オレンジジュース」 :
映画『スリー・ビルボード』

面白かったモノ / 映画 ・ 2021.08.19

モノとコトの映画レビューは、ネタバレなしでお送りいたします。

初めて見た時は心が震えた、ナカトミツヨシ(@meganetosake)です。

上映中、私は息をしていただろうか。そのくらい引き込まれる映画って稀なのだが、この映画はまさにそれ。3枚のビルボード(立て看板)とさまざまな人が絡み合い、予想もつかない最後を迎える。看板の「オモテ面」に隠れた「ウラ面」を見ることは少ない。人も同じで、その意外な「ウラ面」が明らかになっていくと…もうこの映画の虜になっているだろう。

あらすじ

最愛の娘が殺されて既に数ヶ月が経過したにもかかわらず、犯人が逮捕される気配がないことに憤るミルドレッドは、無能な警察に抗議するために町はずれに3枚の巨大な広告板を設置する。それを不快に思う警察とミルドレッドの間の諍いが、事態を予想外の方向に向かわせる。

これは3人の群像劇

凄惨な事件とブラックコメディのバランスが絶妙で、重い話なんだけど、始終引き込まれる映画だった。

一応の主人公は、娘を殺された母親「ミルドレッド」。あまりに警察が何もしてくれないので3枚のビルボード(立て看板)で警察に「まだ犯人捕まらないけど一体何してるの??」とメッセージを送るところから始まる。

「一応」と書いたのが、ちょっと群像劇チックなところがあって、あと2人代表的なキャラクターが登場する。警察署長の「ウィロビー」と差別主義暴力警察官の「ディクソン」。この3人が「主人公」として、あるシーンではミルドレッドが、あるシーンではディクソンが中心になって物語を回していく…という展開。

面白いのが、ただ独立した群像劇というわけではないのだ。徐々に、徐々にではあるが、この3人の関係が絡まっていく。最初は点と点でしかなかった関係が、線になり、繋がり、三角形になるような。そして想像していた未来とは全く違う方向へ転がっていくのだ。

ビルボードのウラ面、人間のウラ面

タイトルにある「スリー・ビルボード」は、文字通り「3枚のビルボードから始まる物語」でもあるのだが、その3枚のビルボードに象徴される「3人のキャラクターたちの群像劇」という意味合いもある。そして看板なんて「オモテ面」は良く見るかもしれないけど、「ウラ面」を見ることは少ない。それは人も同じで、見えている「オモテ面」と簡単には見えない、人によっては見せようとしない「ウラ面」がある。

後半になっていくにつれ、3人それぞれの意外な「ウラ面」が徐々に明らかになっていくと…もう、やめられない、とまらない。この辺りから、上映中息をしていた記憶がないように思う。怒涛のような展開で、意味ありげに頻繁に映るビルボードの「ウラ面」も、じっくり見るようになっていた。

ミズーリ州という場所

この映画、邦題は『スリー・ビルボード』だが、原題は「Three Billboards Outside Ebbing, Missouri」となっており、タイトルの中に「Missouri(ミズーリ)」という地名が入っている。実はこの「ミズーリ州」のバックグラウンドが、『スリー・ビルボード』を語る上で重要になる。

ミズーリ州は、保守的な気風が漂う田舎町で、白人が多く住んでおり、人種差別が根強く残る地域なのだそう。ただその一方で、ミズーリ州に住む白人もまた差別される対象になっている。ミズーリ州の白人の大半は、高所得層や中産階級のエリート層ではなく、低賃金の労働者。そして堕ちるかのように彼らは差別的で暴力的、女性を侮蔑し、閉鎖的なコミュニティに生きていて、好意的な存在には見えないことから「White trash(白いゴミ)」とまで呼ばれているそうなのだ。アメリカの経済成長から取り残されてしまったミズーリ州の人々は蔑まれる存在として記憶に刻まれている。

しかし、そんな彼らも人なんだということを『スリー・ビルボード』では描いている。ぜひ頭の片隅に置いて、観てみて欲しい。

そんな前提もあり、基本的にアメリカの差別や暴力といった冷たい、重い部分への静かな怒りみたいなものが続くんだけど、そんななか心が温まったのが…「オレンジジュース」だった。

何故なのかは、見てからのお楽しみ。本当に心が震えるほど、面白い映画だった。

更新日 :2021.08.19
段ボールの開封はもちろん、紙一枚切ることもできる : ミドリ ダンボールカッター
段ボールの開封はもちろん、紙一枚切ることもできる : ミドリ ダンボールカッター
TOPへ戻る
吟味された原料と製法がつむぐ、旨みとふくよかなコク : サッポロ ヱビスビール
吟味された原料と製法がつむぐ、旨みとふくよかなコク : サッポロ ヱビスビール

人気記事

回さず片手で開けられる、ビール用のグラウラーにも使える、こんな水筒を探してた : REVOMAX2

回さず片手で開けられる、ビール用のグラウラーにも使える、こんな水筒を探してた : REVOMAX2

よかったモノ / 食器
#水筒 #レビュー
カッコ良すぎて隠すどころか飾りたくなる電源タップ : Fargo STEEL TAP USB

カッコ良すぎて隠すどころか飾りたくなる電源タップ : Fargo STEEL TAP USB

よかったモノ / インテリア
#Fargo #USB #電源タップ #レビュー
吟味された原料と製法がつむぐ、旨みとふくよかなコク : サッポロ ヱビスビール

吟味された原料と製法がつむぐ、旨みとふくよかなコク : サッポロ ヱビスビール

美味しかったモノ / お酒
#ピルスナー #サッポロビール #ビール #ヱビスビール #レビュー
音声はもちろん単独でWifiに繋がって色まで変えられるすごいやつ : スマートLED電球 Tapo L530E

音声はもちろん単独でWifiに繋がって色まで変えられるすごいやつ : スマートLED電球 Tapo L530E

よかったモノ / ガジェット
#Tapo #スマート家電 #レビュー
007史上最高傑作で流した、私の涙の理由 : 映画『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』

007史上最高傑作で流した、私の涙の理由 : 映画『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』

面白かったモノ / 映画
#007 #アクション #映画 #レビュー
自立して可愛いし、転がらず大風量 : Japan Hobby Tool カメラ用ロケットブロワー

自立して可愛いし、転がらず大風量 : Japan Hobby Tool カメラ用ロケットブロワー

よかったモノ / カメラ / 撮影機材
#ブロワー #カメラ #レビュー
CATEGORY
HAS TAG
  1. ホーム
  2. 面白かったモノ
  3. 映画
  4. 「母の愛」と「罪の赦し」と「オレンジジュース」 : 映画『スリー・ビルボード』