この映画を見ている時、私は確かに戦場に居た :
映画「ダンケルク」

面白かったモノ / 映画 ・ 2021.09.02

モノとコトの映画レビューは、ネタバレなしでお送りいたします。

息ができなかった、ナカトミツヨシ(@meganetosake)です。

クリストファー・ノーラン監督の映画がずっと好きで、前作「インターステラー」もどハマりだった私。次はどんなSFが飛び出すのかと思いきや、公開されたのが第二次世界大戦を描く戦争映画だったときは、心底驚いた。ただそこには、リアリティにこだわるノーラン監督だからこそ描ける世界があった。

あらすじ

1940年、フランス北端の海辺の町ダンケルクに追いつめられた英仏40万の兵士たち。はるか海の彼方、共に生きて帰ると誓った3人。限られた時間で兵士たちを救い出すために、ドーバー海峡にいる全船舶を総動員した史上最大の撤退作戦が決行される。民間船をも含めた総勢900隻が自らの命も顧みず一斉にダンケルクに向かう中、ドイツ敵軍による陸海空3方向からの猛攻撃が押し寄せる。迫るタイムリミット、若者たちは生きて帰ることができるのか――。

あえて状況を伝えない恐怖

この映画、歴史で言うと第二次世界大戦で実際にあった「ダイナモ作戦」の話。ただ、それに対する大局的な状況説明や戦略的な話はほぼ出てこない。最初に観客に提示される状況は「防波堤」「海」「空」3つの視点から物語が進んでいくことと、各々の視点の主人公たちは皆結構追い込まれて絶望的な状況であるということ。ただそれだけ。

そりゃ、観ている私たちもパニックにもなる。自分たち以外はどうなっているのか、戦争はどういう状況なのか知る由がないので、この絶望的な状況から逃げ切るにはどうしたらいいか検討もつかない。ただそれこそが、登場人物への感情移入を高めるスパイスになっていた。だって、登場人物たちもどうしたらいいのか分からなくてパニックになっているのだから。観ている我々と登場人物たちの心情がシンクロして、冒頭のシーンで既に映画の中へ誘い込まれていた。

これが戦争の「空気」

戦争映画ではあるが、基本的に撤退作戦で、印象的なのは「敵」の姿がほぼ出てこないこと。なのでドンパチやりまくる映画ではなく、比較的地味な映像が続く。ただそこでモノを言うのがノーラン監督の表現力。

息苦しいし、寒いし、どこから撃たれているとも知らない銃撃が来れば観客も息を潜め、狭い空間から外に出ればやっと息が肺に入る。そんな体験を、意識もさせずに「気付いたらしていた」レベルの表現力。

そしてノーラン監督にしては短い、エンドロールを除いたら99分という上映時間の中、ストイックに「撤退のサバイバル劇」を描き続ける。途中で家族を思い出したり、回想を描いたりは一切無し。戦場ではそんなことしてる余裕が本当にないのだ。

まさに「体験」としてこれ以上無いほどの没入感だった。これはもう、戦場の絶望感を体験していたと言っても過言ではない。「その場に居るような」ではない、確実にその場にいたと思わせられるほどの。

複雑に絡む「防波堤」「海」「空」

そしてストーリーが一辺倒ではないのも、ノーラン監督の凄み。「防波堤」「海」「空」3つの物語がクライマックス直前思わぬ展開を見せ、絡み合い、一気になだれ込む。そこ、あぁ、そういうことか!のラッシュ。そして迎えたラストは…これまた回想などは一切ないシンプルなものなのだが、これ以上ない熱いラストとなっていた。

戦場の絶望感、空気感、ストーリー全てが凄すぎて圧倒され続けた結果、映画が終わった直後「すごい、すごすぎる」しか感想が出てこず、自分の語彙力の無さにも絶望することになった。脱帽である。

CGを使わないこだわりと、空気を表現する音楽

少し映画ファン向けになってしまうかもしれないが、撮影の裏話が面白いものばかりなので、紹介させていただきたい。

映像がとにかく、生っぽい。ノーラン監督といえばCGを使いたがらないので有名なのだが、今回も可能な限り実写で迫力を追求したからこそ、あの空気感が醸し出されているのだろう。空戦なんか戦闘機に乗っているのかなと思わせるリアル感だったのだが、後で調べたところそのシーン、なんとIMAXカメラを本物の戦闘機にくくり付けて、本当に飛ばして撮影したらしい。そして最大限の視覚効果を得るために、超高級カメラを水没させたのだとか…。そんなおバカ(超褒めてます)なことする人他に居ないので、そのシーンだけでも満足度が高い。

大人数の兵士が並ぶシーンでもCGの使用を避けるために、厚紙を切って作った兵士や軍用車のプロップを使って大軍隊を表現していたらしい。そこまで…する?というところまで徹底的実写にこだわったノーラン監督の映像は一見の価値ありだ。

また今回は音楽も恐ろしく良かったのだが、作曲はハンス・ジマー。『パイレーツ・オブ・カリビアン』原曲を作曲したことでも有名なのだが、その彼が今回は『パイレーツ・オブ・カリビアン』最新作とタイミングが被っちゃったので、そちらは弟子の「ジェフ・ザネリ」に任せて『ダンケルク』に全力投球したという、魂の込めっぷり。その甲斐あって1秒たりとも気を抜けない戦場のヒリヒリ感と空気を、音楽で見事表現してみせた。

映画を構成する要素全てが、ここは戦場だと静かに叫ぶような、そんな鬼気迫る映画だった。

更新日 :2021.09.02
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