揺らぐ人間とAIの境界線、あなたは人間ですか :
映画『エクス・マキナ』

面白かったモノ / 映画 ・ 2021.07.18

モノとコトの映画レビューは、ネタバレなしでお送りいたします。

ドウモコンニチハ、ナカトミツヨシ(@meganetosake)デス。

− 私は人間なのだろうか。

映画『エクス・マキナ』は、AIと人間の境界線を描きつつ、そんな疑問を抱かせるSF映画。静かで、詩的で、絵画的。そして登場人物も少なく、ほぼ同じ場所で展開するのに、至る所に数学的とも言える伏線を張り巡らせ、衝撃的なラストを迎えるスリラー映画でもあります。

あらすじ

検索エンジンで有名なIT企業「ブルーブック」でプログラマとして働くケイレブは、抽選で社長ネイサンの自宅を訪問する権利を得る。ケイレブは広大な山岳地帯の奥にあるネイサンの自宅までヘリコプターで招待され、ネイサンが製作中のAIの実証実験を頼まれるのだが…

もしGoogleやFacebookがAIを作ったら

今までの映画に登場した「人間のようなAI」ってどこか、全くの未知というか、架空の域を抜け出せないでいました。オーパーツを使ったり、人の心を移植したり、実は頭脳は本物の人間だったり。

しかしこの映画に登場するAIは、架空ながら”検索エンジンで有名なIT企業「ブルーブック」”が、資金力とIT企業としての技術力を結集、そして無断で収集した利用者の個人情報までも利用して、「人間のようなAI」を作り上げます。

キーワードを聞く限り、現実世界の「Facebook」や「Google」を思い浮かべるのではないでしょうか。そんなIT企業の持つ資金力や情報力なら、もしかすると人間のような振る舞いができるAIを作れるかもしれない…そしてAIの思考の根拠は、実際の人間の個人情報や検索指向だったら。この映画は、AIが一気に現実味を帯びた設定を携えて現れた映画とも言えます。

ちなみにこの映画が公開された2015年は、まだ得体の知れないIT企業というイメージのあった「Facebook」や「Google」が急速に台頭してきたり、2013年にエドワード・スノーデンの事件が起こったりと、どことなくITに対する不安や不信が多かった時代でもあります。そんな時代のリアリズムも色濃く反映された、社会派な一面もある映画です。

人間とAIを分つものは何か

この映画にはAIが登場しますが、それは機械学習で賢くなったシステムというレベルではなく、人間を模したガイノイドです。ちゃんと名前もついていて、AVA(エヴァ)と呼ばれています。明らかに機械のパーツの集合体として描写されますが、それでもあまりに人間らしい振る舞いにすぐさま「人間」と「AI」の境界線が揺らぎ始めます。

そんなAVAに対して、チューリングテストを行いAVAの完成度を確かめることが、本作の目的です。チューリングテストとは、アラン・チューリングによって提唱された「人間的かどうか」を判断するためのテストのこと。AVAはAIの範疇を超えて人間のような存在なのか、毎日行われる「セッション」で区切られた会話を通して確認していきます。

そして観客である我々も「チューリングテスト」に間接的に参加していくことになります。AVAは人間なのか、主人公が人間だと言い切れるのか。じゃぁ、人間ってなんだ、AIが人間となる線引きはどこなのか。話が進むとだんだん怖くなってきます。私は、人間なのか。

今までも人とロボット/アンドロイドの線引きを語る映画は数ありましたが、この映画はド派手な爆発や手に汗握るアクションがあるわけではなく、淡々と会話をしてチューリングテストを行うことで、内面から深淵を覗くタイプの映画です。ただ地味な映画というわけではなく、その中でも大きなうねりと張り巡らされた伏線に、心がずっと揺さぶられていました。

そして「セッション」の本当の意味を知ることになり、最後に人間とAIを分つ決定的なものが明らかになります。

衝撃のラストが頭から離れない

どんでん返しと衝撃的なラストが待つ今作、しかしただ突飛なだけではなく、この映画の至る所に張り巡らされた伏線全てが、このラストへ向かうために仕向けられていました。個人的には完璧なラストだったと思っています。レビュー前に今一度見直したのですが、伏線の美しさにため息が出るほどです。これほど綿密に計算し尽くされた映画もなかなか無いのでは…それほどまでに数学的に美しい展開です。

作中にジャクソン・ポロックの絵画「No.5, 1948」が登場します。一見適当に絵の具をぶちまけたような絵ですが、1億4000万ドルで競り落とされたとんでもない絵です。ポロックは自分を無にして、意図的に書いているわけではないが、ランダムに書いているわけでもないと作中でも説明されます。そしてそんなポロックの絵画をあなたは真似できるのか、見ただけで真贋を判断できるのか。

これは絵画やAIだけでなく、人間に対しても同じことが言えるかもしれない。この映画の描こうとしていることは、単に人間とAIの境界線だけの話ではない、会話というコミュニケーションツールを得た我々人間に対する深すぎる深淵をも描いていたのです。今私は「人間」なのだろうか。ラストでは、そんな考えもよぎりました。結局我々もこの映画を通して「チューリングテスト」を受けさせられていたのかもしれませんね。

あなたは、人間ですか。

更新日 :2021.07.18
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