とにかくトンデモなかった。ちょっとまだ、監督の熱にやられているナカトミツヨシ(@meganetosake)です。実際にジオラマを作り、手作りの人形を少しずつ動かしながら1コマ1コマ撮影したものを繋げて映像作品を作る「ストップモーション」。それをたったひとりでスタート、完成までに7年の歳月を費やすという「狂気」とも言える熱量と、作品への「愛」が、スクリーン越しでも伝わってくるほど溢れていました。
自分の脳内で、自分だけの世界を作って妄想した、あの頃の人形遊びのようなワクワク感をはらみながら、自分の信じるモノを作り続ける勇気と、実際に圧倒的な世界観と完成度で創り上げた事実に、思わず自分でも何かを創りたくなるような映画でした。
CONTENTS
あらすじ
環境破壊が止まらず、もはや地上は住めないほど汚染されてしまった世界。
本作のはるか昔、人類は汚染された地上を捨てて地下開発をはじめました。その労働力として人工生命体「マリガン」を創造しますが、その「マリガン」が自我に目覚めてしまい人類に反乱、逆に地下を乗っ取られてしまいます。
その敗北から1600年たった今、人類はなんとか生き延びるために遺伝子操作を重ねて、永遠とも言える命を得るに至っていましたが、その代償として生殖能力を失っていました。そんな最中になんと新種のウイルスが発生、人口の30%を失った上、人類は生殖能力を持たないため人口の減少に歯止めが効かず、絶滅の危機に瀕してしまいます。
そこで人類は再生の道を探るため、地下で独自の進化を遂げていたマリガンの調査を開始。主人公も調査隊として広大な地下へ潜ることを決意し、多くの困難が待ち受ける冒険が始まる…という物語。
僕はこの世界に入りたい
結構世界観が独特なのですが、この世界観、僕大好きなんですよね。「BLAME!」「大友克洋さん」「エイリアン」「廃墟」なんかのキーワードに引っかかる人は、好きなんじゃないかな。
デル・トロ監督が驚嘆!と謳われているのは伊達ではなく、ちょっとグロテスクで、でも愛嬌のあるキャラクターたちが沢山登場します。中には…というかほとんどが危険な生物たちなのですが、そんな彼らでさえ嫌悪感を通り越して「通行人を食べて、頑張って生きてるな…」と謎の共感を抱いてしまう魅力に満ちていました。
そして広大な地下空間がたまらないんです。この辺りも先程のキーワードに引っかかる人は恐らく、萌えてくれることでしょう。整備が行き届いているとは到底言えないような汚れっぷりで、所々壊れているしゴミは散乱。配管や電線は剥き出しで放置されています。それがただね、無作為に置かれているわけでは無いんですよ。ここが汚れる前はどういう空間で、何をしていて、どうやって生活していたのか…そんなことまで想像してしまうくらい、佇むジオラマにまでストーリーがこもっていました。
画面に映っているモノ全てに意味があるんですよね。可能なら一時停止して隅々まで見渡したい、なんならこの世界に入り込んで僕も冒険してみたいとすら思っています。この映画はジャンルで言うとSFなんですが、SFって「サイエンス・フィクション」な訳で、空想の世界。言ってしまえば、全部嘘なんですよ。その嘘をあたかも現実なのかもしれないと信じ込ませる説得力が大切なのですが、その点ではこの映画はピカイチのSFだと言ってもいいと思います。
ひとりの人間が全てに関わるからこそできること
その世界観を作り出せた理由の一つに、やはり監督がほぼひとりでこの映画を作っちゃったという「狂気」とも言える(めちゃくちゃ褒めてます)「熱量」と、作品への「愛」があるのだと思います。
内装業を営む堀貴秀監督が、脚本やキャラクターデザインはもちろん、撮影や照明のセッティングもご自分で、ジオラマも自前のスタジオに組み立てて、自分で作った人形を自分で動かす。そして編集に至るまで、映画を作るためのプロセス全てに関わっているんです。そうやって、自分の作りたいものを、全て自分で表現し尽くしているからこそ、あの強烈な世界観を表現できたんだと思います。そんな作り方なので、7年もかかっちゃってるんですが…
音楽も素晴らしくて、世界観にちゃんとマッチしたインダストリアルな、ちょっとゴツゴツした音楽が映画の世界を盛り上げるのですが、その音楽にまで監督関わっちゃってて、エンドロールを見た時は正直驚愕でした。もはやちょっとギャグなのかなって思うくらい、「堀貴秀」という名が埋め尽くすエンドロールは一見の価値有りです。今時YouTubeに上がっている自主制作でもこんなに並ばないんじゃないかなと思うくらい、並ぶんですよね。
「好き」を盛り込み尽くすと、それはやっぱり面白い
設定自体はそれこそ1980-90年代でよく見られたディストピアの世界観で、ストーリー自体も目新しい展開が目白押し…というわけでは無く、むしろ当時の様々な作品への熱いノスタルジーを色濃く感じる作品になっていました。
じゃぁ、面白くなかったの?と言われると…面白かったんですよねーやっぱり。この映画って、監督の好きな世界、好きな設定、好きな展開をこれでもかと盛り込み尽くした、極めすぎた究極の人形遊びなんですよ。そこまで「好き」を集めると、結果それは監督の思い描きたい世界全てが表現されているんです。そうなると、その世界への没入感が凄まじくて、純粋に楽しめるんですよね。逆に、新しいことをしようと頭だけでこねくり回したような映画よりも遥かに面白いと思います。
正直前半は、監督もまだ手探りで始めたばかりな空気感がスクリーンからも伝わってきて、絵的にもストーリー的にも「大丈夫かな…」と思いながら見ていたところもあるのですが、技術力の向上も半端なくて、後半はいつの間にかその世界に入り込んでいました。もはやキャラクターたちが人形だということも、パンフレットを読むまで忘れていたくらいです。それくらい作品の完成度が凄まじく、見終わった瞬間は「面白かった」を通り越して「トンデモなかったな」と唖然としていました。
そしてその「トンデモなかったな」という気持ちを咀嚼できるほど落ち着いたあたりで「なんかもう一度あの世界に帰りたい」と思っていました。これが「クセになる」っていうことなんでしょうね。
これは3部作の序章に過ぎない
今作だけでもある程度話はまとまっているのですが、広大な世界を語り尽くすにはまだ全然足りません。というのもこの作品、あらかじめ3部作の構想で作られていて、残りの話もコンテは既に終わっているらしいのです。だから3部作ありき、まだまだ序章なんですよね。
もっとこの世界を観てみたいと思わせる映画だったので、次回作以降もとても楽しみにしています。ただ今回完成まで7年かかっているので…次はいつかな。
とりあえず次回作を待っている間に、メイキングが観たいな。ワクワクしすぎちゃって、実際に自分でも何か作ってみたいと思っちゃう、そしてまた今後の楽しみが一つ増えた、そんな映画でした。