ガンダムを知らないとしても衝撃の面白さ :
『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』

面白かったモノ / 映画 ・ 2021.06.18

モノとコトの映画レビューは、ネタバレなしでお送りいたします。

実は『機動戦士ガンダム』を観たことがないナカトミツヨシ(@meganetosake)です。脈々と受け継がれてきた息の長い作品は時として、敷居が高くなって新参者には入りにくいことがあります。今回観た『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』も、『機動戦士ガンダム』という歴史の中で厚みを持った世界をさらに広げる物語です。

設定なども過去の作品と完全に共有しているので、どちらかというと『機動戦士ガンダム』ファンが楽しむ作品なのでしょう。ただ私、『機動戦士ガンダム』は機動兵器モビルスーツが登場する、戦争を描いた作品。というレベルの知識しかありません。

それでもこの世界に飛び込んだのは、予告編と、後ほどご紹介する15分以上にも及ぶ本編冒頭のシーンを観て「これはヤバいかも、絶対に見逃してはいけない気がする」という焦りにも似た興奮をおぼえ、前知識を仕入れる間も無く気付いたら映画館の座席に座っていました。

結果、とっても面白かったです。アニメもここまできたのか…と思わず唸る描き込み、『機動戦士ガンダム』を知らなくてもある程度は楽しめる懐の広さ、そして『機動戦士ガンダム』を知っていればなおどっぷり世界に浸れるであろう奥行きを持った、素晴らしい映画でした。そんな作品を、『機動戦士ガンダム』を知らないただの映画好きからみたレビューをお送りしたいと思います。

ちなみにあまりレビューでは触れないかもしれませんが、興味のある方は、公式サイトで「『閃光のハサウェイ』を内包する宇宙世紀作品」をご紹介するPDFが公開されているので、さっと見てみるといいかもしれません(読んでから観に行けばよかった)。

あらすじ

第二次ネオ・ジオン戦争(シャアの反乱)から12年。地球連邦政府の腐敗は酷く、強制的に民間人を宇宙へと連行する非人道的な政策が行われるほど汚れきっていました。

そんな腐りきった政府に対して、連邦政府高官を暗殺するという苛烈な行為で抵抗を始める組織が登場しました。反地球連邦政府運動「マフティー」です。リーダーの名は「マフティー・ナビーユ・エリン」。その正体は、『機動戦士ガンダム』の舞台でもある一年戦争を戦った、連邦軍大佐ブライト・ノアの息子「ハサウェイ・ノア」だったのです。過去の作品の超重要人物の息子がマフティー(政府という正義から見たら悪者)、そのトップだったんです。

素性を隠しながら地球へ降り立った「ハサウェイ」が、とある事件を機に、敵とも言える連邦軍大佐のケネス・スレッグや謎の美少女ギギ・アンダルシアと出会い、その運命を大きく変えていく。

重力をも感じる圧倒的な描き込み

まずは私が興奮してしまった、15分以上もある本編冒頭の映像をご紹介したいと思います。

映像美もさることながら、私は緻密に描き込まれた細かな設定に目を奪われました。SF、とりわけアニメーション作品でそれを描こうと思うと、全てが架空、言ってしまえば存在しない”嘘”の世界を描く事になります。それをいかに本物に見せられるかで、その世界へ観客を連れて行けるかどうかが変わります。「えぇー嘘だぁー!」と思われた瞬間、観客は現実の世界に帰っちゃう、しかもそう思われやすいシビアなジャンルなんですよね。

その点では今作品は、恐ろしいほどの「架空」への描き込みを行っています。無重力下での機内の作法や、飲料の扱いに至るまで設定が細かく描かれていて「あぁ、無重力だとこういう事に気をつけないといけないんだな」と理解させられるレベル。自分も無重力下での旅行の作法はマスターした気になり、もはや乗客と一緒にこの仕立てのいい椅子に座っていたかもしれないと思えるほど描きこまれています。

そして重力のある地球圏内に入ると、突然体が重くなったなと錯覚するほど明らかに空気が変わり、落ちる薬莢にまでこだわりを感じます。

もちろん、こんな事イチイチ気にして観る必要は全くありません、これは私の癖です。ただ描き込みが凄まじいので、気にしないでなんとなく見ても、なんとなく感じ取り、気付いたら私と一緒にあの座席に座っちゃうほどの没入感と説得力を持っていると思うんです。そうやって設定を作り込んでいるからこそ、アニメかつSFというシビアな作品であっても、ましてやガンダムを知らない私でさえも、一瞬で世界に入り込める描き込みは見事としか言いようがありません。

この尋常じゃない描き込みは最後まで続き、巨大なモビルスーツ同士の戦いから、食事後に皿に置いたカトラリーの揺れまで、見事に架空の世界を「本物」だと表現し続けて、「えぇー嘘だぁー!」と思うような隙は一切ありませんでした。なので、たとえSFやアニメを普段見ない人、ガンダムを知らない人であっても思った以上に入り込める作品に仕上がっていると思います。最近のアニメ凄すぎませんか。

頭上で機動兵器が戦う恐怖

そんな細かな描き込みを続けるような作品なので、巨大な人型機動兵器であるモビルスーツなんか出てこようもんなら、正直恐怖を感じました。マジで怖いです。

重力下でモビルスーツに乗って戦うと、敵の恐怖もさることながら、落下の恐怖も凄まじい。被弾して落下が始まるともう気が気ではない、一刻も早く態勢を立て直さないと、相手よりも先に重力に殺されると思うほどでした。

そして最も恐ろしいのが、そんなモビルスーツたちが戦うまさにその足元で、逃げ惑う主人公たちからの視点。上空でちょっと被弾すれば、地上にはとんでもない瓦礫が落ちてくる。流れ弾だけでも街は破壊され、逃げ惑う人々の混乱までリアルに伝わってきます。

今までも「トランスフォーマー」や「パシフィック・リム」など、逃げ惑う市民の視点から見たロボットたちの戦闘の描きかたが秀逸な作品はあるのですが、その中に堂々ランクインするほどの圧倒的な恐怖でした。

複雑な情勢と人間関係が作品を盛り上げる

実はこちらの作品、あらかじめ3部作になると決まっている作品なんですよね。なので現時点でのストーリーのレビューが結構難しい。とにかくこの世界へ入り込むための導入や、さまざまなきっかけが描かれている感じ。起承転結で言うと「起」がしっかり描かれていたので、その点では導入としてはとても面白い作品でした。

主人公が、政府から見たら悪の親玉。ただ今の政府が善かというと、そうでもない。でもそんな政府の中でも、綺麗な理想を持って動く者もいる。誰もが、その人たちから見た正義が存在する、いわゆる勧善懲悪ではない設定は私は大好物でした。そしてミステリアスなキャラクターも多く登場し、今作ではほぼ何も答えは出ないが、今後への期待感は高まるストーリーでした。

今までのガンダムとこれからのガンダムの橋渡し

そして今更ですがやっぱり、ガンダムってかっこいいですね。

ガンダムも、そしてプラモデルも通ってこなかった私なのですが、完全な食わず嫌いでした。ガンダム同士の戦闘ともなると迫力は段違いで、純粋に度肝を抜かれていました。

今作品は、私のように『機動戦士ガンダム』を知らなくても結構楽しめる作品です。ただ、やはり『機動戦士ガンダム』を知らないをピンとこないキーワードや設定もありました。また『機動戦士ガンダム』を知っていると確実にもっと楽しめるだろうし、また『機動戦士ガンダム』の系譜に正式に組み込まれている作品なので、今回は”触り”くらいでも以降はガッツリ過去の話が絡んでくるかもしれません。

そこで出てくる話題。過去の作品を見るかどうか。

作品数も多いので悩むところですが、個人的には今回の作品の続きが気になるとともに、作中で描かれる過去の事件が、過去の作品で描かれているので、一体何があったのかちゃんと見てみたいという気になりました。登場するキャラクターたちも、その事件を経て思考し、行動しているはずなので。

そういう意味では、過去の作品への興味喚起にもなるかもしれない、『機動戦士ガンダム』ユニバース作品としても良いものだったのではないでしょうか。少なくとも私の『機動戦士ガンダム』デビューとしては大満足でした。ただこの懐の広さは、既存のガンダムファンたちからみたらどう見えているのでしょうね。もっと”ガンダム”して欲しかったんじゃないかなとも、ちょっと思っています。

機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ

2021年
アニメ
95分
監督 村瀬修功
声優 山寺宏一 / 小野賢章 / 上田麗奈 / 諏訪部順一 / 斉藤壮馬 / 落合福嗣 / 津田健次郎 / 石川由依
脚本 むとうやすゆき
原案 矢立肇 / 富野由悠季
更新日 :2021.06.18
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