ヒトがまだ知覚できない概念までも描く恐怖のSF :
映画『アナイアレイション -全滅領域-』

面白かったモノ / 映画 ・ 2021.08.05

モノとコトの映画レビューは、ネタバレなしでお送りいたします。

と言いましたが、モットーがすでに崩れそう、ナカトミツヨシ(@meganetosake)です。

モノとコトのレビューは、なるべく短く、ネタバレ無しがモットー。そういう時に(いい意味で)困るのが、無限に語りたくなってしまう「アナイアレイション -全滅領域-」のようなタイプの映画。そして語ることが全てネタバレになってしまいそうなほど伏線が張り巡らされた、難解で形而上学的なラストを存分に楽しめる、極上のハードSF映画だった。

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あらすじ

不可解な現象が起こる謎の領域”シマー”。中を見ることもできない、何が起こっているのかも把握できない光の壁で覆われたその領域は、米国の海岸地帯で拡大を続けていた。主人公であるのレナの夫はその調査へ赴くも、調査隊は全員音信不通の行方不明になってしまう。そんな中、”シマー”から夫だけが生還するも、瀕死の重傷を負っており意識不明の昏睡状態に。レナは、夫の身に何が起きたのか、真相を解明するため自ら調査隊に志願して”シマー”へ。そこで調査隊は、生態系が突然変異を遂げて生まれた異様な景色と生物を目撃することに。それは見た者の生命と精神を脅かすほど美しく危険な領域。彼らが目にした想像を絶する真実とは。

ジワジワと効いてくる面白さ

最初はホラーやパニック系映画なのかなと思って観始めたが、想像以上に哲学的なハードSFだった。もう、大好物である。映画自体もかなり濃いので、観終わった直後から「おぉ、想像以上に面白かったな」と余韻に浸ることができるタイプだ。しかし難解で形而学上的なラストに圧倒され、レビューを書くのは一晩寝かせてからにしてみた。翌日、改めてレビューを書き始めると…あれ、この映画、なかなかの傑作だったのでは?と、じわじわ評価が上がっていく感覚に襲われた。あまり感じたことのない、ちょっと不思議な感覚だ。

ハードSF映画はどうしても結末が難解になりやすい。この映画もその類なのだが、作中に散りばめられた「ヒント」を洗い出して思考が整理されればされるほど、そして結末の解像度が上がれば上がるほど、面白さが増していったのだ。それだけしっかりと伏線が張られた、そして結末も見事な、まさに噛めば噛むほど味が出ちゃうタイプの映画と言える。

観た人の考え方や経験で大きく答えが変わるラスト

難解な結末が待っている映画だが、でもそれが投げやりではなく、ある一定の答えに至るヒントもしっかり散りばめられている。

ではそのヒントを全て集め切った時に、全員同じ答えに行き着くかと言われると…おそらくそうではない。ヒントに対する解釈が、その人の考え方や経験で大きく変わる類のラストなのだ。だから、非常に面白い。自分なりの解釈を人に話したくなるし、あ、そういう考えがあるんだ!という発見も楽しい。皆さんがこの映画を観てどのような結末に至ったのか、ぜひ話を聞いてみたい。

ヒトがまだ知覚できない概念を映像化

この映画では、まだ我々には知覚できない、ある概念を映像化している箇所がある。それが、なかなか見事だった。インターステラーで4次元・5次元といった、認知できない多次元を映像化してみせた時の興奮と同じだ。

それ以外の映像も見事で、さまざまな影響を受けて不可解な現象ばかり起こる”シマー”は、美しくも不気味。この世のようで、この世ではないような、絶妙なバランスで描かれ続ける世界観に圧倒された。ただ、どれも妙に現実味がある。徐々に崩れていく精神まで描き切った、見事な映像だった。

昨今あまり見かけない、ゴリゴリなハードSF映画

実はこの映画ノーマークで…何か映画を見たいなと思った時に偶然見つけた映画だった。そして観てみると、今となってはあまり見かけなくなった、ゴリゴリのハードSF映画だったのには驚いた。

「SF」と言っても、スター・トレックやスターウォーズのような「SF」映画とはまた違う。科学技術や知見の拡大を描くものがそれらの「SF」だとするなら、例えば私たちの概念や存在の定義が変わったら。ヒトをヒトたらしめる要素は何か。もしヒトが、もっと進化したら?こちらは、そういう「哲学のようなものに近い科学」に基づいた「SF」なのだ。

だから、答えが出るものではない。ので、どうしても結末が難しくなりがち(というか、人類が認知できる概念を越えちゃったりしてるので、もはや感じるしかない)故にあんまりウケないのか、昨今は本数自体がかなり少ない。非常に寂しい思いをしている。

しかし私は、オールタイムベストにもあげているハードSF「2001年宇宙の旅」にハマって映画が好きになったタイプなので、こういう映画を切望していた。章ごとにタイトルが出る演出があるのだが、過去同じ演出をしていた2001年宇宙の旅」のオマージュなのかな…と、ちょっとニヤリとさせられ、本筋とはまた違う部分でも興奮しっぱなしだ。ストーリーは異なるものの、テーマも近しいものがある。

もしハードSFの世界に足を踏み入れてみたい人がいたら、是非観て欲しい。そして一緒に、人類のその先には何があるのか、終わらない旅へ一緒に踏み出してみよう。

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ちなみに、本作で監督を務めたアレックス・ガーランド監督の過去前作品「エクス・マキナ」も非常におすすめなので、こちらもぜひ。

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更新日 :2021.08.05
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